磯島未来ちゃんワークショップ

斎藤麻里子


 

7月の連休を利用して、岩手県大船渡市に住んでいる磯島未来ちゃんがワークショップをしに綱島に来てくれた。

 

未来ちゃんは少女の頃から綱島と縁深く、私たちが知らないことをたくさん知っている。限られた土日の日程でできる限りのことを未来ちゃんから得ようと、多くのダンス☆ショー出演者が集まった。

 

 

私は日曜のみ遅れての参加。

 

土曜から熱量が上がっている稽古場に駆け込みで参加することには不安があったけれど、追いつくしかない。

 

いつもは音がしないようにそろりと開ける稽古場のドアをいささか鼻息荒く開けると、人いきれで外気の5割増しになった湿気がむわっと迫って、焦りと興奮を感じる。

 

美香さんには、プライベートな言い訳は通じなかった。どんな理由があろうと「稽古に遅れるのが悪い」し、遅れているのが分かっているならそれを挽回するダンスをしないといけない。ダンスで示せというヒリヒリした感覚が蘇る。

 

 

 

◆OSAKA


私が到着した時にはすでに『OSAKA』の振り確認が終わり、曲で通すための場当たりをするところだった。慌てて列に入る。

 

嘘でも華やかに。胸に顔がついているような気持ちで上半身をひっぱる。

 

 

 

◆ララ


ワンフレーズの振りを繰り返しながら、舞台奥から斜め前に進んでいく作品。途中でひとり、ふたりと「失神」したように倒れ、ゾンビのように生き返ってはまた振りに合流するというルール。

 

「失神」は、ケガや誰かに踏まれたりするリスクがある。ダンサーズの大先輩「吉田さん」が、「私は途中で倒れるのはやめて、ずっと振りの確認をします」と宣言。

 

直立した状態で前奏が流れ、全員がお揃いで右に一歩進んだ瞬間。

私の左側で「ドスッ!」という音。

「倒れない」と宣言した吉田さんが、いきなりイの一番に失神したのである。

 

なんと言うか、吉田さんは本当にすごいのだ。

 

いつも吉田さんはこういうことを狙ってやるのではなく素でやっていて、私のような「つい狙ってしまう」ちんちくりんには到底真似できない圧倒的な巧さがあって、憧れと悔しさみたいなものがこみ上げて一瞬涙ぐんでしまった。

 

 

 

◆剣さん


未来ちゃんから、出だしがおとなし過ぎるとのダメ出し。

 

両手を広げて肩・胸を震わせながら、中腰で前進していくこのパート。これだけで体力を消耗するので一瞬「体力温存」を考えてしまいそうになるけれど、後のことなんて考えてはいけないのである。体力をつけなければ…!

 

 

 

◆ゲーシャ


私は『ゲーシャ』を本番で踊ったことがなく、希望して初めて参加させてもらっている演目。

『ゲーシャ』は音が緻密で、「ここで次の振りに入るかな」と思うタイミングではなく、「えっこんなところで!?」というタイミングで次の振りに移行する。音が拾えず、カンニングしながら踊るせいで半テンポ遅れる。焦った。まずは自力で音を拾えるようにしないとまずい。

 

『ゲーシャ』は、私がダンサーズの稽古に参加し始めた頃ちょうど公演で踊られていて、すでに振り入れが終わっている演目だった。

 

他の演目は「振りを知らなくても混ざる」という態度が受け入れられていたのに対して、『ゲーシャ』だけは「混ざらないで」と言われていた。振りを知らなければ・音が取れなければ場を濁す。「場を濁す体は、場のために除くのも私の役目です」と美香さんが言っていたことを思い出す。

 

『ゲーシャ』に混ざってみたい、と10年前から思っていた。また「混ざらないで」と言われるわけにはいかないのである。

 

 

 

◆ボレロ


『ゲーシャ』と同様、憧れていた演目の一つ。
コンクールのようなテクニックを盛り込みながら清流のように体が線を描く景色と、スリリングな即興部分が織り交ざる。

 

 

藤井友美ちゃんがビデオから振り起こしをしてくれていたので、少しだけ予習をしていた。私もビデオから振り起こしをしようと思ったのだけど、不思議なステップを踏みながらクルクルと回旋する動きがまったく掴めず、友美ちゃんに頼りきりだった。

 

『ボレロ』の振付は、体の「フツウ」を裏切ってくる。

 

例えば、「ジャンプ」をしたら膝のクッションを使って足の裏全体を使って着地、というのが「フツウ」なのだけど、「ジャンプ」のあとが「ルルべ(背伸びの状態)で着地」だったりする。

 

「どうしてこんなことに!?」という振りの連続に苦笑いを漏らしつつ、なんとか全パートの振り写しをしてもらった。寝たら忘れそうなので急いでこの日のうちにメモを残す。

 

 

 

◆そして居酒屋へ…


 

稽古の後、磯島未来ちゃん・藤井友美ちゃんと三人で駅前の居酒屋へ。
ダンス☆ショーを公演として行うことについて話す。

 

私自身も、ダンス☆ショー公演を行うことについて最初は消極的な気持ちだった。美香さんがいないのにダンス☆ショーができるのか。振りの記録や発表会みたいになってしまうのではないか。感傷的なモードになって思い出を辿るようなことになるのではないか。振付を残したいなら、稽古場でだけやれば良いのではないか。

 

でも意を決して稽古場に来てみると、「あれっ、やるしかないじゃないか」という気持ちになった。時間の長さの差はあれど美香さんと過ごしたメンバーの、本番に向かっている稽古場には、頭でモヤモヤと考えていたことを吹き飛ばす強い風が吹いていた。ダンス☆ショーの中には、単なる「記録しておきたいユニークな振付」ではない、もっと体の奥のほうのスイッチを入れる何かがある。

 

そういえば、数年前のダンス☆ショーの稽古の時も、この振付の中に隠されているダンスのスイッチを探して、うまくいかないことも多いながらも、時々体に滑車がついたように見たことのない景色へ運ばれることがあった。

 

美香さんから、ダンスに火をつける「投石の一声」はもう貰えない。これはすごく大きなことだけど、本番に向かう体には確かな種火があるし、「誰に頼まれたわけでもないけど私たちはやるぞ」という様子を、美香さんはしっかりと見ている気がする。

 

そして次の話題は、お決まり「つらかった稽古について」。身の毛もよだつ「美香さん節」の数々を思い出し、ぞっとしつつもどこか温かい気持ちになったりしながら、夜は更けていったのでした。

 


※写真は、南呼子さん・木檜朱美さんが撮ってくださいました

 

 


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