ストレッチ

青木研治


 

ポエトリーリーディング。

俺が、所謂、詩の朗読をやりはじめて、もうすぐ20年近くなる。

 

 

 

文字の形を見つめることで、言葉の意味を確かめたり

言葉を声にすることで、そこに宿る温度を確かめたり

そこから

見失った感情に思いを馳せてみたり

不意に見えそうな未来にわくわくしたり

今まで見えなかった景色が見えてしまって

言葉にできない感情を抱えたまま焦ったりしながらも

未だにポエトリーリーディングをやめていないのは

 

 

 

やめたくないのか?

やるしかないのか?

やめられないのか?

 

 

 

あるいは、

やるやらない以前の話なのか?

 

 

 

生きている限り、意識しなくても、呼吸をしているように

地球を語るうえで、海と大地と空の存在が不可欠なように

 

 

 

俺がポエトリーリーディングについて、

こんな風に考えるようになったのは

美香さんにきっかけを与えてもらったような気がする。

 

 

 

2012年9月23日@KAAT神奈川芸術劇場中スタジオ

俺は、今まで自分が全く知らないダンスの世界に足を踏み入れた。

lonely woman

俺がこのダンスイベントにお誘いをいただいた時

そもそも、なんで俺がダンスのイベントの出演者に選ばれたのか?

さっぱり、わからなかった。

だって、俺は、即興ダンスなんてしたことないし

詩だって、即興で詠む自信もなかったし

だけど、その頃の俺は

重力に対して、誠実じゃなかったというか

地に足が付かない状況というか

なんとなく、いつも逃げるように過ごしていたので

ここではないどこかに心が惹かれやすい状況だったし

もしかしたら、このダンスイベントのお誘いは

今まで知らない自分と出会えるかもしれないと

自分勝手に漠然ながらも期待を抱いたことも確かだ。

これは、俺の日常において、

追い風なのか?

向かい風なのか?

もしかしたら、横殴りの風かもしれない。

だけど、

すべては、あとからわかる話。

とにかく、

風を感じることで、今の自分の輪郭を感じることができそうな気がした。

だから、

ダンスをできる確信はなかったけど、

「ぜひ、出演させてください」と書いて、お誘いのメールに返信した。

そのあとは、

何をしてよいかわからないまま

本番に向けての準備らしいことは何もせず、ダンスイベントの当日を迎えた。

 

 

 

雨が激しく降っていた。

昨日飲んだ酒の酔い覚ましの水にしては、十分すぎるほど

俺は、いつもライブで履いている革靴じゃなくて

靴底がゴム製の革靴を履いて、横浜に向かった。

 

 

 

会場であるKAAT神奈川芸術劇場中スタジオ

壁も床も黒一色だった。

中スタジオとはいえ、

俺から見たら、とても大きな空間で、

さっきまで、傘に当たる雨の音をずっと聞いていたせいか

スタジオ内では静けさが際立って、じわりじわりと鳴り響いているように感じた。

なんなく、俺は、宇宙を連想した。

そして、

俺は、美香さんと、初めて面と向かってちゃんと挨拶した。

「よろしくお願いします。」

俺よりも背は低かったけど、

俺よりもずっと背骨が太い感じがした。

それが、美香さんの第一印象。

 

 

 

そのあと、開演時間が近づくにつけて、実感していったのは

ほんとに、このダンスイベントは即興なんだな、ってこと。

開演までこれといったリハーサルもなかったし、

はたして、俺は、この広い空間で何ができるだろうか?

答えがでないまま、客入れが始まった。

 

 

 

そして、これといったアクシデントもなく、

lonely womanは開演した。

 

 

 

俺は、自分よりも先に舞台に立っているダンサーを眺めながら、

自分の出番がやってくるまで、ずっと考えていた。

俺は、どんなダンスをすればいいのか?

っていうか、

ダンスなんて出来ないよね?俺。

 

 

 

結局、答えらしい答えは見つからないまま

ダンサーの交代のきっかけを与えるヒト時計の何が欲しいんだの演奏が流れ出したので

俺は、美香さんと交代するためにステージに端に立った。

 

 

 

プレッシャーや、緊張するとかはなかった。

ただ、漠然な視線をたくさん浴びているという実感はあった。

 

 

 

だけど、

実際、自分の体をどう動かすべきか?どういう風に立ち止まるべきか?

全くもって、定まっていなかったので、

ある意味、はたから見たら挙動不審だったと思う。

 

 

 

いや、もっと端的にいうならば

体を動かすことの難しさを噛みしめていた。

 

 

 

ただ立っているだけなのに。

いや、ただ立っていることに対して

今の俺、このままでいいのかな?って戸惑いそうになった。

 

 

 

そして、

いざ、なんとなく動いてみたら、動いてみたで

これって動かないほうが、なんか能動的な感じがしたかも?って思ってみたり

いつもライブで履いている革靴とは違うゴム底の革靴だってせいもあって

少し、足元がおぼつかない気分になった。

 

 

 

だけど、あの日、俺はラッキーだった。

なぜなら、あの日の俺はlonely womanの出演者であることに間違いなかったが

同時に、誰よりも間近で、

美香さんのダンスを観ることができた観客だったからだ。

 

 

 

俺は、恐る恐るではあるが、

ほかのダンサーの様子もみながら、

一歩一歩、前に進んで

美香さんに近づいてみることにした。

 

 

 

距離にしてみれば、数メートル。

普通に歩けば、たぶん、数秒で美香さんの前にたどり着ける感じだったが

実際には、1分以上かかった気はする。

 

 

 

間近で見た美香さんのダンスは、

見たまんまというよりも、あるがままだった。

誰かが作った形や動きではない

ただ連続していく体の動きの中に、

たくさんの言葉が見え隠れしていた。

 

 

 

それは、文法に拘らず書き記した文章のようだったけど

俺は美香さんと会話できているような気がした。

 

 

 

そう、

俺は、美香さんのダンスに

美香さんが書いた詩のようなものを感じたんだ。

 

 

 

ならば、逆もしかり

俺は、自分の書いた詩で、俺なりのダンスができるのではないか?

 

 

 

自信がなくても、かまわない。

だけど、自身を失ってたまるか。

俺は、無性に嬉しくなった。

 

 

 

サバンナの中で、水を見つけて喜んでいるのか?

限られた時間の終わりを受け入れ、何かを託そうとしているのか?

それとも、生き物であることのたくましさに気づけと言われているのか?

 

 

 

ドラムとベースとエレキギターの演奏が続くなかで、

美香さんの腕に張り付けられたセロハンテープは

ぐるんぐるんと力強く振り回された。

アフリカゾウの鼻のようだった。

 

 

 

と、思えば、そのあと、

アゲバ蝶が、花のありかを捜すように

ゆーらり、ゆらーり、ゆっくりと

俺の目の前で、

セロハンテープが舞っていた。

 

 

 

 

いや、待っている、と思った。

俺は、アゲハ蝶の羽根を挟むように、

セロハンテープを親指と中指でそっと掴んだ。

よしっ!!

と思った。

と、同時に、

俺の中に漂っていた迷いは、いつしか完璧に微塵もなくなっていた。

それは、この世界にまた一人のダンサーが生まれた瞬間だった。

美香さんのダンスを通じて。

 

 

 

あれから5年の時間が過ぎた。

俺は、今も詩人と名乗り続けている。

 

 

 

今回、

再び、lonely womanに参加するにあたって

俺は俺なりのダンスができるだろうか?

それは、やっぱり、あとからわかる話。

 

 

 

だけど

今回は、本番に向けて

しっかり、俺なりのストレッチをして挑もうと思っている。

 

 

 

意識的に呼吸をしてみるとか

目覚ましのアラームが鳴る前に、目を覚ます眠り方を目指してみるとか

食欲をそそるような弁当を自分のために作ってみるとか

きめ細かい泡が作れるように、冷やしたグラスにビールを注いでみるとか

窓を完璧に拭いてみるとか

気持ちのいい音がなるように、新聞紙を破ってみるとか

不意をつくように、セックスを企ててみるとか

ベランダの植木に語りかけてみるとか

lineで、誤魔化さないように、スタンプを使ってみるとか

開店前のベーグル屋さんから漂ってくる香ばしい匂いにときめくかどうか確かめてみるとか

新しいシャツを買って、一生懸命、仕事に励んでみるとか

そのあと、骨がふやけるくらい、湯船につかってみる

などなど・・・・。

そして、頭の中に言葉が浮かび上がるまで、待ってみようと思う。

たぶん、だけど、

いや、

そうであってほしいだけかもしれないけど

 

 

 

テキストを持っても持たなくても

文字を読んでも読まなくても

言葉が溢れだしても、枯れてしまったと思っても

思わず、体が動き出しても

まったく、体が思い通りに動かなくても

 

 

 

角度と覚悟が決まれば、

人は、誰もが、詩人だと思うし、

その時、人は誰もがダンサーなんだと思う。

 

 

 

最後に

先日、スタジオ80にて行われた

美香さんを偲ぶ会「60だよ 全員集合!」のときに

美香さんに捧げた詩を、書き記したいと思う。

 

 

 

当たり前だと思うことを

ありえないと疑い始めて

言葉の枝葉は拡ったが

いざ、声にしたら景色が枯れた

 

 

 

むやみに水を与えてしまえば

根っこが溺れて腐り始める

だから、当たり前だと思うことでも

ありもしない言い訳を探す

 

 

 

風が吹くのを待つのではなく

風を吹かせて立ち止まるのだ

君はそびえ立つことができるか?

愛を呼び込むことができるか?

 

 

 

 

ほんの一ミリの差ではあったが

体裁を保ち躓いた段差

大地を踏みしめる難しさを知れば知るほど

世界に向けて切るべきだ、君だけの啖呵

 

 

 

佇まいだけで目が奪えるか?

赤い花を咲かすサボテンのように

止まっていても言葉が溢れていた

トゲを隠さず、虹を渡ったdancer

 

 

 

独りで走り続けるだけでは

時をかけても、何かが欠けていた

もはや答え合わせができなくても

見つけなきゃいけない俺なりのanswer

 

 


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